2010年2月25日木曜日

トヨタのリコールに関して。

先程、トヨタ社長の公聴会と米国の社員に対してのスピーチを見た。涙ぐみながら社員に訴えかける様子を見て、個人的には誠意を感じられたのだが、世間で言われているように、対応が遅すぎたのが、ここまで問題を大きくしたのだろう。


不祥事に対する対応、企業の社会的責任に関して、経営学のテキストなどで耳タコなのが、ジョンソン&ジョンソン(J&J)のタイレノール事件である。


1982年、シカゴで、シアン化合物によって死亡した7人の市民が直前にタイレノールを服用していたことが発表された。タイレノールは当時、米国では国民薬と言われるほど普及しており、この発表により米国民は大きな不安に陥った。この時点では、タイレノールにシアン化合物混入の疑いがあるだけで、死亡原因かどうかは不明だった。


しかし、J&Jは、即対応した。当時の会長は、タイレノールを飲まないように警告を促し、製品を全回収に踏み切ったのである。加えて、メディアを通して、自社は、利益を第一に考えるのでなく、消費者の命を第一に考えていると訴え、新しい商品との引き換えも行った。この時の回収費用は、1億ドル以上とも言われている。迅速な対応の結果、半年後には、売り上げの90%を回復し、メディアにも賞賛され、現在もビジョナリーカンパニーとして存続している。


このような、迅速な対応を可能にしたのは、「消費者の命を守る」ことを謳ったOur Credo(我が信条)という経営理念(哲学)があり、全役員、全社員に徹底されていたため、緊急時対応方針を決めるのに時間がかからなかった。


トヨタもこの事例に倣うべきであった。米国のリコール問題は、米国の運転者の技術の問題、現地部品メーカーの品質、政治的なバッシングなど、受け入れ難いものだったのかもしれない。しかし、北米は重要なマーケットであり、JJのように迅速に対応し、誠意を見せれば、消費者からの信頼はより深くなり、長期的には利益になったはずである。


トヨタの理念を見てみると、「モノづくり、車づくりを通して、皆様とともに豊かな社会創りを」らしい。これを実践するための基本理念は、7つあるが、そのうちの1つに、「内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて国際社会から信頼される企業市民を目指す」とあるが、それらが、もっと具体的に表され、全社員の絶対的な行動指針になっていれば、対応は変わるはずである。


加えて、トヨタが迅速な対応を出来なかった背景として、米国法人に意思決定の権限が無かったことが挙げられていた。つまり、組織構造にも大きな問題があったということである。トップダウン型の組織構造からボトムアップ型の組織構造への転換が求められている時代に、全ての権限を本社に残し、米国法人をあたかも日本の支社のように扱っていたのだ。これでは、米国消費者に対して迅速な対応は困難である。


卒論でIntegrated Marketing CommunicationIMC)の展望を書いた際にも、消費者との対話型コミュニケーション実現に、縦割りの組織構造は大きな問題点であったが、それと同じである。


このトヨタの事例に関しては、『ビジョナリーカンパニー』が示唆に富んでいる。この本では、100年単位にわたって利益を上げ続け成長している企業を調査し、その原則をまとめたものである。その1部を紹介すると以下のようなものがある。




  • 利益を最大限に増やすことより、基本的価値観、理念の方が大切である。
  • 基本的価値観は、内容そのものより一貫して実践されることに意味がある。
  • 基本理念は変えずそれ以外の全てを巧みに変化させる。


トヨタがこの先、永続する「ビジョナリーカンパニー」になれるかどうかは、素晴らしい製品を生み出すこと以上に、基本的価値観、理念を大事にし、それ以外の全て(特に組織構造)を変化させることなのではないだろうか。

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